2018年5月5日土曜日

韓国映画の「タクシー運転手」から忘れられない場面の紹介

昨日、韓国映画の「タクシー運転手」を見ました。
「光州事件)をめぐる韓国現代史を普通の国民の視点から取り上げた傑作です。ソン・ガンホ演じるタクシー運転手が主人公ですが、虐殺があった光州市の住民もまた映画の主人公です。
この映画の最後で映画にでていたドイツ人の記者本人が最後に登場し、このタクシー運転手に会いたい、そして彼のタクシーでソウルを回ってみたいと言ってます。私はこの発言を聞き、
韓国の「栄光と挫折」を経た「苦難の歴史」があって、「市民キャンドル革命」があり、「板門店宣言」があったのだとしみじみ思いました。
タクシー運転手、キム・マンソプの運転するタクシーで「市民キャンドル革命」の現場と、「板門店宣言」で朝鮮半島の平和を語る北朝鮮の金正恩委員長と韓国の文在寅大統領が38度線で握手をする場面をソウルの光化門広場のテレビを涙を流しながら食い入るようにみていた市民の姿を、このドイツ人はしっかりとあの世から見ていただろうと思いました。
この映画館は満員でした。ソン・ガンホのフアンも増えたことでしょう。私は日本政府とマスコミ、ネトウヨの発言から日本に対する怒りと諦めの気持ちがありましたが、この映画に感動し日本の変革を願うであろう日本人市民がたとえ少数でも実際に存在することを実感し、このような人たちがさらに増えていくことを心から願う気持ちで映画館を出ました。

帰り道、興奮冷めやらない私は妻としばらく歩きながら、映画の話をしました。心に残る場面はたくさんあるのですが、その中でも、何の説明もなく、思いがけない場面がさりげなく出てきました。それは軍人による光州市民の虐殺があり光州市が完全に封鎖されていたのに、お金が必要でドイツ人記者を乗せソウルから光州に連れて行ったタクシー運転手は、そこで光州市民の気持ちに触れ、虐殺事件の現場を見て真相を知るのです。そしてその現場を撮影したドイツ人記者を乗せ、タクシー運転手は光州からの脱出を図ります。撮影した画面を世界中に流すと約束したドイツ人記者を出国させるためです。

しかし光州市を出る直前、警察からの通報で、外国人記者を捕らえよと指令が伝えられるのですが、ドイツ人記者を乗せたタクシーは検問で捕まり、車のトランクを開けた一人の責任者らしき軍人が隠されていたソウル市のナンバープレイトを見つけます。万事休す、です。しかしそのとき、その軍人は部下にタクシーを検問所から出せと命じるのです。その検問所を脱出したタクシーは警察から追いかけられるのですが、タクシーを無事逃して広州の実情を世界に知らせると約束したドイツ人記者を出国させようとかけつけた光州のタクシー運転手たちの命を賭けた抵抗によって、無事出国し、翌日、光州市の映像は全世界に報道されるのです。

検問にいた若き責任者が、そのタクシーこそ警察が追っているドイツ人記者を乗せたタクシーだとわかったのに、どうして表情も変えず、何の感情を見せないで検問から出せ(=逃がせ)と部下に命じたのでしょうか。映画では、一切、その説明はありません。ただし軍人の話す言葉が全羅道の訛りであったことから韓国人はその軍人もまた光州市に関連する人間であることはよくわかっていたことでしょう。

私の妻は、軍人の中にも広州市の虐殺をよく思ってない人がいたということね、と言わずもがななことを言ったので、私は生返事をしてしまいました。たしかにそのとおりでしょう。「タクシー運転手」のチャン・フン監督もまたパンフの中でその場面に関しては何も語っていません。徴兵制で韓国の青年は軍隊に入り、軍隊の厳しさを見ているのですが、彼らもまた、この検問所での軍人としては許されぬ「裏切り行為」にほっとしたことでしょう。心にしみる、いい場面でした。

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