2017年7月13日木曜日

福田紀彦 川崎市長への公開書簡

福田紀彦 川崎市長 殿

                                                   2017713

日韓/韓日反核平和連帯 事務局長    崔 勝久
元日立就職差別裁判原告              朴 鐘碩
元東京都管理職試験拒否訴訟原告    鄭 香均

                        公   開   書  

政党に依存せず市民の立場から立候補して川崎市長になられ、川崎を住み良いまちにするために日夜、励んでおられる福田市長の御努力に敬意を表します。 
川崎市は日本の植民地政策によって歴史的に在日朝鮮人が住みはじめ、現在は南米やアジアの人たちが多く住む国際都市です。その真っ只中で憂うべき、ヘイトスピーチ・デモが発生しました。川崎を愛し良くしたいと願う者として、川崎市をどのようにすればいいのか、福田市長に公開書簡をお送りします。ご検討いただければ幸いです。

1.はじめに
福田市長が、街中で公然と「朝鮮人を殺せ」と叫ぶヘイトスピーチ・デモを許さないと決意されたことに世界の人々は喝采しました。しかし、いまだにヘイトスピーチ・デモを強行するとの予告がネット上で公開されています。福田市長におかれましては、彼らに公的施設を貸さない、一定の地域の立入りを禁じるという段階から、ガイドラインの制定にとどまらず、川崎においてはいかなる差別も許さない、市民・住民の人権を断固として擁護するという、差別を撤廃する世界水準の方策を市民と一緒になって考えていただきたいと願います。

アメリカにおいては、批判的人種理論の代表的論者であるMari J. Matsudaは、ヘイトスピーチが「芯からの恐怖と動悸、呼吸困難、悪夢、PTSD、過度の精神緊張(高血圧)、精神疾患、自死にまで至る精神的な症状と感情的な苦痛」をもたらすと指摘していますが、これまで日本では、同様の実証的な研究の必要性が叫ばれながら、社会調査・臨床調査いずれもあまり進んでいないのが現状です。

そのためには、地方自治体としては国内で初めての、国政においても未だ実現されていない、人種差別撤廃条約を基としての、国籍、性、思想、障がいなどを理由にしたいかなる差別も許さない条例を川崎市において市民と共に検討、制定していただきたいと願います。そうでないと、差別のない、住みよいまちづくりを願う福田市長や私たち市民にとって許すことにできない、ヘイトスピーチ・デモとこの川崎で再び対峙することになります。

そのようなことが川崎で起こることに、もはや、私たちは耐えられません。憲法が保障する集会や表現の自由を侵す恐れを理由にしてヘイトスピーチの規制を制限する動きも見られますが、ここは福田市長が、川崎市民の人権の保障を最優先する姿勢を明確にしてくださるものと信じます。

川崎市は全国に先駆けて、児童手当や公営住宅の国籍条項の撤廃、「多文化共生」を掲げての外国籍市民の市政参加を求める外国人市民代表者会議の設立、そして外国人の地方公務員の門戸開放などを実現させました。そのような川崎市において、ヘイトスピーチ・デモは許してならないと多くの市民がたちあがったこのときこそ、ヘイトスピーチ・デモを生み出す根本的な問題を探るべきではないでしょうか。

ヘイトスピーチ・デモを一部の特殊な集団だけの問題にせず、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核とミサイル実験に抗する制裁政策や、マスコミの北朝鮮への警戒心を呼びおこす報道が日本社会の右傾化につながり、「在日」に対する差別・偏見を増長させる動きになってきている実態を直視すべきです。

さらに、人種差別撤廃条例の制定と合わせ、日本社会における「在日」差別の問題、特に差別をなくす主軸となるべき地方自治体における、制度化された差別の問題をしっかりと見つめ直す機会にするべきではないでしょうか。ヘイトスピーチとの闘いは、知性と品格を備えた市民の覚醒を促し、歴史を重視する教育政策によって、アジアの平和を求め対話を通して諸問題を解決する、息の長い総合的な取り組みの中で解決されていくものだと思います。

2.外国籍公務員の門戸の開放を実現し、任用差別の緩和を図った「川崎方式」
福田市長が最初に立候補された時にお会いしたときのことをおぼえていらっしゃるでしょうか。その時私たちは、川崎市が政令都市として全国で最初に外国籍者の門戸開放をしたにもかかわらず、川崎市の職員に採択された私たちの後輩や子弟たちが管理職への任用(昇進)とさまざまな職務を制限されるという、実質的な外国人差別に遭っていること、それは労働基準法と憲法の保障する基本的人権の侵害にあたるのではないか、とお話しました。

川崎市は外国籍公務員の差別をなくすために「川崎方式」をうちだしました(1997)。それは、「外国籍職員の任用に関する運用規程」(以下、「運用規程」)をつくり、「公権力の行使」と「公の意思形成」の職務は日本人に限るとした「当然の法理」(戦後間もない1953年の日本の独立に備え、日本籍ではあるが植民地下の台湾人・朝鮮人の排除のために作られた政府見解)に抵触しないで、外国人に川崎市の門戸を開放するやり方です。

つまり、「当然の法理」に基づき、外国籍者の「公の意思形成」による課長以上の決裁権のある管理職に就くことの制限と、「公権力の行使」による職務制限(「命令・処分等を通じて・・市民の意思にかかわらず権利・自由を制限することとなる職務」に就かせない)を撤廃するのではなく、問題の根本的な解決を先送りして門戸の開放を優先したことになります。その結果、東京都では働けても川崎市では働けない職種(例:保健師)があるなどの齟齬が生じています。

公務員が「市民の意思にかかわらず(市民の)権利・自由を制限する」ことが許されるのは、戦後すべて公務員は明治憲法下の天皇に忠誠を尽くす「官吏」ではなく、市民・国民の基本的人権を遵守する「公僕」であり、市民の「権利・自由を制限する」規程を明記した「法律」に従うことが求められるからです。しかし同時に公務員も市民、労働者としての基本的人権は守られるのです(労働基準法第3条や憲法に明記)。「公権力の行使」において外国籍公務員だけに超法規的な制限が設けられるのは、きわめて差別的で不当なことといえます。

3.「当然の法理」に挑戦した鄭香均(チョン・ヒャンギュン)―精神保健医療観察法・感染症対策係長を担い
ここで、「当然の法理」に基づく外国籍公務員差別に挑戦した鄭香均の裁判を紹介したいと思います。鄭香均は、桜本の地域で看護師として働きながら地域の現実を学び、その後、東京都の外国人職員第1号の保健師として、上司の薦めもあり管理職の試験を受けようとしましたが、「当然の法理」が壁となって受験は叶わず、都知事を訴え高裁で勝利しました。最高裁で敗れました(2005126)が、判決によって、外国籍公務員が決裁権ある管理職への昇進(「公の意思形成」)(「公権力行使等地方公務員」(最高裁判決における定義)の具体的な職務の内容は、各地方自治体で判断、決定するという道が開かれました。

つまり、最高裁判決に基づき、自治体首長である川崎市長の判断によって「当然の法理」で外国籍公務員に制限されていた職務や任用の内容を独自に検討し、決定することができるようになったのです。人事は地方自治体の独自の判断でできることになっています。それは旧来の国民国家の主権を絶対化した「当然の法理」の解釈に抵触しないように作られた「川崎方式」、つまり、唯一川崎独自の「運用規程」の問題点を市長の判断で根本的に改正することが可能になったことを意味します。

国籍と国民主権を理由にして外国人差別を正当化することが地方自治体において許されなくなれば、一般企業における影響は計り知れないほど大きいでしょう。さらに「人権、共生のまち」で生活し差別をなくそうとする川崎市民は、制度化されて見えなくなっている外国人差別の問題をこれまでの人権運動の集大成として取り上げていくことになるでしょう。その改正の動きは全国に波及し、いずれ「当然の法理」の撤廃に繋がり、福田市長は先駆者として歴史に名前が刻まれることでしょう。

世界の良識ある市民、人権・平和を訴えるグル-プが川崎の動向に注目しています。私たちは川崎において民族差別をなくす運動にながく関わってきましたが、その中で最大の事件は「日立闘争」でした。受験の機会を確保するために日本名と日本の居住地を本籍欄に記して日立製作所の入社試験に合格した朴鐘碩(パク・チョンソク)は、「嘘つき」という理由で解雇され、日立を相手に法廷内外での国際的な解雇撤回を求めた「日立闘争」で勝利し(1974619)、定年まで勤めました。この事件は現在に至るも高校の教科書で紹介されており、川崎では、その「日立闘争」の精神が50年近く経過した現在も脈々と生きています。

私たちはその勝利の上で地域活動をはじめ、国籍条項の撤廃や地域における保育園(社会福祉法人青丘社桜本保育園)の運営や無認可の桜本学園を作りながら、地域で当たり前のこととしてはびこっていた、就職差別だけでなく、銀行融資や信販会社の会員募集に際し在日韓国人からの申し込みを国籍を理由に拒否するという民族差別を経験し、そのような差別をなくす運動を住民と共にはじめ、民族差別を認めない、許さないという「共生のまち」づくりの核が作られていきました。その流れは、全国に先駆けて、行政における国籍条項撤廃を実現し、児童手当や公営住宅入居における外国人差別の厚い壁を突破することになり、その後、年金の国籍条項撤廃に繋がりました。こうした運動は、後輩たちによって引き継がれ、ふれあい館・桜本こども文化センターとして定着するようになりました。私たちは川崎市民の先進的な運動とともに、歴代川崎市長の英断、議会の働きを誇りに思っております。

福田市長におかれましては、川崎市民だけでなく、世界の平和を願う人々の期待に沿うべく、いかなる差別もなく、ヘイトスピーチ・デモのない、住みよい国際都市川崎のまちづくりを実現してくださることを心から期待いたします。福田市長のますますのご活躍を祈念いたします。
 
連絡先:212-0055 川崎市幸区南加瀬5-35-3 崔 勝久 
email: che.kawasaki@gmail.com


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